猫の避妊・去勢手術の必要性

子猫 集合
人間や犬など多くの哺乳類は、排卵の前後数日に交尾があれば受精する「自然排卵動物です。

一方、猫は交尾の刺激によって排卵する「交尾排卵動物。つまり、交尾した場合ほぼ100%妊娠するという非常に高い繁殖力をもっているのです。

猫は生後6~12カ月の間に性成熟を迎えることが多く、発情期といわれる春~夏以外でも交尾、妊娠が可能です。また、猫の妊娠期間は約2カ月。

一度に生まれるのは3~5匹、生んだ子猫が離乳する生後2カ月を迎えるころには再び妊娠できます。環境省は、避妊手術をおこなわない猫は1年で20匹以上も出産すると示しています。

子どもを産ませたい、子孫を残したいという明確な目的がないのであれば、望まない繁殖を防ぐためにも避妊・去勢手術をさせるのは飼い主の責任でしょう。
参考文献
環境省 不妊・去勢手術をして 飼いましょう(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2810a/pdf/02.pdf

完全室内飼いでは不十分

完全室内飼育であっても、繁殖を完全に防ぐのは不十分です。発情期を迎えた猫は、家の外に強く出たがることがあるため、脱走の危険性があるからです。

また、「発情期を迎えても交尾ができない」というのを何度も繰り返すことは、猫にとって大きなストレスを抱えることにもなります。

猫の避妊・去勢手術のメリット

猫 メモ
特別な理由がない限り、猫の避妊・去勢手術はおこなうのが望ましいとされています。

「自然のままに任せたい」「健康な体にメスを入れるのはかわいそう」と感じる人もいるかもしれませんが、避妊・去勢手術をおこなうことで大切な愛猫にたくさんのメリットをもたらすことができます。

避妊のメリット

発情がなくなる

個体差はあるものの、メス猫が発情期を迎えるのは春から夏にかけて年に数回。発情自体がストレスになる場合もありますが、交尾ができないことで猫は大きなストレスを感じてしまいます。欲求が満たされないことで、体調を崩すこともあるのです。

発情自体をなくすことができる避妊手術によって、猫に無駄なストレスを感じさせることがなくなります。

望まない繁殖を防げる

室内飼育であっても、発情期の猫はとくに外に出たがるため部屋からの脱走が心配です。また、外からほかの猫が侵入してくる可能性もゼロではなく、知らない間に妊娠、出産してしまうこともあるかもしれません。

避妊手術は、飼い主のいない不幸な猫を増やさないことにもつながります。

問題行動が減る

猫によって違いはありますが、発情期には普段と違う特有の行動が見られます。

  • 高い声で鳴く
  • 粗相をする
  • 脱走しようとする(外に出たがる)


といった行動が目立たなくなるため、飼い主のストレスが軽減されるというメリットもあります。

マーキングはオス猫のイメージが強いと思いますが、発情を迎えたメス猫がすることあります。また、マーキングと粗相の違いについては、下記の記事をご覧ください。
関連する記事

病気を防げる

  • 乳腺腫瘍
  • 子宮蓄膿症
  • 子宮内膜炎
  • 卵巣腫瘍
  • 卵胞嚢腫


などの病気を予防できるのが、避妊手術の最大のメリット。卵巣・子宮を摘出することで、性ホルモンに関連する病気や生殖器疾患の発生リスクを大きく下げることができます。 

去勢のメリット

問題行動が減る

オス猫に周期的な発情期はありませんが、発情期のメス猫が発する声やフェロモンに誘発されて発情します。そのため、時期に関係なく繁殖行動が可能になります。

去勢手術をおこなうことにより、
  • 大きな声で鳴く
  • 尿スプレー(マーキング行動)をする
  • 脱走しようとする(外に出たがる)


といった発情中の行動が抑えられます。また、発情期以外にも見られるオス猫のマウンティング行為も減少が期待できるでしょう。

攻撃性が減る

発情期のオス猫は興奮しやすく攻撃性も高まるため、とくに多頭飼いの場合は猫同士のけんかに注意が必要です。また、時にその攻撃性が飼い主に向くこともあります。

こういったオス猫の攻撃性は、去勢手術によって緩和されることが多いといわれています。

病気を防げる

精巣を取り除くことで、

  • 精巣腫瘍
  • 会陰ヘルニア
  • 前立腺肥大
  • 肛門周囲腺腫


といったオス特有の病気の予防につながります。

また、屋外に出る習慣のあるオス猫は、ほかの猫との交尾やけんかが原因で感染症にかかる可能性もあります。

去勢手術により攻撃性が下がることで猫同士のけんかに巻き込まれるリスクが減り、交尾をすることもなくなるため感染症から愛猫を守ることにもなるのです。

避妊・去勢手術のデメリット

猫 エリザベスカラー
猫の避妊・去勢手術によるメリットは大きいものの、デメリットがまったくないというわけではありません。手術を検討する前に、正しく理解しておきましょう。

手術で体に負担がかかる

手術は全身麻酔でおこなわれるため、体への負担はゼロではありません。麻酔のほかに出血のリスクもあります。
「麻酔から目覚めてくれなかったらどうしよう」「術後に体調が悪くならないだろうか」と心配になるかもしれません。

しかし、手術前には必ず身体検査や血液検査をおこないます。獣医師が猫の状態をしっかり見極めてくれるので、極端に心配する必要はないでしょう。

前日~当日の猫の様子で、健康状態に不安な点がないか飼い主がしっかり観察しておくことも大切です。

メス猫の避妊手術は、開腹手術と腹腔鏡手術の2種類があります。開腹手術は1泊程度入院することが多いですが、腹腔鏡手術は体への負担や痛みが少ないため、基本的には日帰りが可能です。

また、オス猫の場合は日帰りで済むことがほとんどです。

太りやすくなる

ホルモンバランスの変化により、術後は太りやすくなるといわれています。また、術後に食欲が増す猫も少なくなく、食事のコントロールが必要になります。

室内飼育の場合は運動不足から肥満になることもあるので、しっかり遊んであげることも大切です。

費用がかかる

避妊・去勢手術には、費用がかかります。また、保険の対象外となる場合が多いことも覚えておきましょう。
手術費用は、
  • 避妊手術:20,000~40,000円
  • 去勢手術:10,000~20,000円


が一般的。加えて、手術前の検査費用や入院費がプラスされることもあります。

手術費用については動物病院によって違いがあるので、事前にかかりつけ医に確認しておきましょう。

性格が変わることがある

すべての猫に変化が現れるわけではありませんが、手術後のオス猫でよくいわれるのが猫の性格が「おとなしくなった」「甘えん坊になった」といった性格の変化。

発情による問題行動が減ったことで、以前より穏やかな性格に感じることがあります。

避妊・去勢手術を受ける時期

猫 親子
避妊・去勢手術ははじめての発情を迎える前、だいたい生後6カ月前後におこなうのが理想。

理由としては、初回発情前に避妊・去勢手術をおこなうことで、病気によってはそのリスクがさらに低下することがあるからです。また、問題行動のなかには発情が原因となるものがあるため、発情前の手術でその行動が癖になるのを防ぐこともできます。

ただし、ある程度体の成長が認められることも手術の条件として挙げられます。手術が受けられる時期には個体差があるので、獣医師と相談して決めてください。

避妊・去勢手術の内容

猫 診察
手術自体は1時間以内で終わることがほとんどですが、術前の検査や入院が必要な場合もあります。また、全身麻酔でおこなわれるため前日からの絶食が必要です。

愛猫が安全に手術を受けるためにも、動物病院の指示や注意事項にはしっかり従いましょう。

手術終了後に、連絡をくれる動物病院もあります。猫の手術が心配であれば、連絡を希望してみてくださいね。

避妊手術の方法

先に紹介したように、避妊手術には開腹手術と腹腔鏡手術の2種類があります。

  • 開腹手術
    体の外側からおなかを数cm切開し、直接卵巣と子宮、もしくは卵巣のみを取り除き摘出後、縫合します。
  • 腹腔鏡手術
    3~5mm程度の穴を3カ所ほど開けておなかに器具を入れ、モニターに映し出しながら体内で処置をおこなったうえで穴から摘出。その後、縫合します。


どちらも安全で確実な手術法ですが、傷口が小さく、痛みや体への負担が少ない腹腔鏡手術をおこなう動物病院も増えています。

術後は、傷口を舐めてしまわないように、エリザベスカラーや術後服を装着して傷口を保護します。退院後は傷口が傷んだり開いたりする可能性があるので、激しい運動は避けます。

術後の通院については動物病院の方針や猫の状態によってさまざまですが、だいたい7~10日後に抜糸、異常がなければ通院は終了です。

去勢手術の方法

陰嚢を1~1.5cmほど皮膚切開し、精巣を摘出するのが一般的な手術法。麻酔・手術時間はだいたい30分くらいが目安です。

摘出後に止血が施されますが、去勢手術では傷口の治りが早いため縫合しない場合も多くあります。最後に、傷口を舐めてしまわないよう、エリザベスカラーを装着して傷口を保護します。

傷口が痛んだり開いたりすることもあるので、術後の通院が終了するまでは激しい運動は避けましょう。

条件や予算に合った手術方法を

高野 航平

開腹手術の場合は、一般的におこなわれている術式のため、技術的にも熟練の獣医師が多く、たくさんの動物病院で受けることができます。もし避妊去勢以外の何らかの処置が必要な場合、ほかの手術や処置(腫瘍の摘出やヘルニアなど)を同時におこなうことができるため、猫の負担を減らすことが可能です。

一方、腹腔鏡手術は体への負担が小さいことがメリットですが、特殊な機器や技術的なスキルが必要なため、受けられる病院が限られてしまいます。費用的にも、開腹手術よりも数万円程度高くなることがあります。

獣医師に聞いた! 猫の避妊・去勢についてのQ&A

思ったよりも早く発情が来てしまった。発情中でも避妊手術はできる?
可能ですが、発情中は子宮や卵巣の周りにある血管が太くなり、血流量が増えているため出血のリスクが高くなります。
そのため、発情が落ち着いてから手術をおこなうことが多いです。
マーキング(スプレー行動)がひどい。去勢手術をしたらやめる?
オス猫が性成熟を迎える約6カ月ごろまでに手術をおこなうことで、スプレー行動は抑えることができます。

スプレー行動が何度も見られるようになってからの手術では、100%抑えることは難しいです。
しかし、トイレの環境を清潔に保つ、トイレの数を増やしてあげる、たくさん遊んだり落ち着く場所を作ったりしてストレスを取り除いてあげるなど、術後の工夫次第でスプレー行動を軽減することができます。
術後は何かケアをする必要はある?
手術は猫の体だけでなく精神的にも負担がかかります。

家に帰ってきたら安心できる場所でゆっくり休ませてあげるとよいですね。急にごはんやおやつをあげることはせず、先生からの指示に従い、様子を見てあげます。
数日たっても元気がない、食欲がない、動きが悪いといった場合にはすぐに受診するようにしましょう。

また、傷口を気にして舐めてしまったり、縫合糸を嚙み切ってしまったりすることもあります。そのため、エリザベスカラーや術後服で保護してあげるようにしましょう。

術後はホルモンバランスの崩れからとても太りやすくなるので、ごはんの量や回数、内容に配慮することも大切です。
今までと同じ種類のごはんをあげる場合は量を減らして、1日の摂取カロリーを制限してあげる必要があります。低カロリーのフードを選ぶのもおすすめですよ。
たくさん運動させて、体重管理に気を付けましょう。
避妊・去勢手術ができないと判断されることはある?
健康状態が極端に悪い、何かほかの疾病の治療中といった場合には手術を見送ることがあります。
そのような場合は、今ある疾病についての治療をおこない、手術可能な状態にしてから避妊・去勢手術をおこなうことが一般的です。

獣医師からのメッセージ

避妊・去勢手術を受けることで、たくさんのメリットがあります。

とくに、メス猫は6カ月齢までに避妊手術をおこなうことで、将来的に乳腺腫瘍の発生を91%低下させることができるといわれています。
また、オス猫は去勢手術をおこなうことで温厚になり、けんかによる感染症やケガを防ぐことができます。

愛猫の健康と望まない妊娠を防ぐためにも避妊・去勢手術を受けさせることをおすすめします。

全身麻酔やおなかを開くことに不安な気持ちがある場合には、かかりつけの先生に遠慮なく相談するようにしましょう。

まとめ

猫 2匹
猫の避妊・去勢手術には望まない繁殖を防ぎ、病気が予防できるという多くのメリットがあります。もちろん、デメリットもゼロではないため避妊・去勢について正しく理解することが大切です。獣医師と相談しながら、愛猫に避妊・去勢が必要かどうかしっかり考えましょう。