猫の慢性腎臓病(慢性腎不全)とは

腎臓病の猫
腎臓は、尿をつくったり血液を調節したりと、さまざまな役割をもつ臓器です。
腎臓病(腎不全)は、腎臓がダメージを受け、十分に機能しなくなっている状態のことをいいます。

また、腎臓病には「急性腎臓病」と「慢性腎臓病」があります。
急性腎臓病は、急激に腎臓機能が低下する病気です。すぐに治療を受けないと命に関わります。
一方、慢性腎臓病は3カ月以上の期間をかけて徐々に腎臓機能が低下します。とくに高齢の猫が発症しやすく、死亡率の高い病気です。

腎臓病には以下のような症状が挙げられます。
  • 元気がなくなる
  • 体温が低下する
  • 嘔吐回数が増える
  • 食欲が低下し体重が減少する
  • 症状が進行するとけいれんする

このような症状がみられたときは、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。

猫の慢性腎臓病(慢性腎不全)の原因

腎臓病の猫
猫の慢性腎臓病はどのような原因で発症するのでしょうか。
原因を知っておくと日常生活のなかで、ある程度予防することも可能です。

はっきりした原因は不明ですが、猫の慢性腎臓病は以下の要素が原因となり発症しやすいといえます。
  • 腎結石
  • 尿管結石
  • 腎臓腫瘍
  • 細菌感染
  • 加齢

15歳以上の高齢猫の81%が慢性腎臓病を患っているといわれています。
腎臓病は、腎臓機能の大半が失われて症状が表れるため、早期発見が難しい病気です。
また、尿路結石や腎臓腫瘍、細菌感染など、腎臓機能を低下させる病気にかかっていないかを調べることも重要です。

猫の慢性腎臓病(慢性腎不全)の症状

腎臓病の猫
猫の慢性腎臓病になると、次のような症状が表れます。
  • 水を飲む量が増える
  • 尿の量が増える
  • 尿の色が薄くなる
  • 食欲が落ちる
  • 元気がなくなる
  • 脱水症状が表れる
  • 便秘になる
  • 体重が減る
  • 毛づやが悪くなる
  • 口臭がきつくなる

また、慢性腎臓病は腎臓機能の状態や症状によって4つのステージに分けられます。

ステージ1

まずは、ステージ1の症状です。
ステージ1は、見た目に大きな変化はみられません。血液検査も異常のないことが多いですが、尿検査で異常がみられることがあります。
腎臓の機能は、正常時の3分の1まで低下するといわれている段階です。

ステージ2

多飲多尿が症状として表れるのが、ステージ2です。
腎機能が低下してくると尿を濃縮できなくなるため、色の薄い尿を大量にします。その結果、水分不足になり、水をたくさん飲むようになります。

ステージ2の段階では、元気・食欲はあり、愛猫の体の異変に気が付かないことも。しかし、腎臓の機能は正常時の4分の1まで低下していると考えられるでしょう。

ステージ3

ステージ3は、食欲低下や嘔吐など、さまざまな症状がみられます。
ステージ3では、老廃物などの有害物質を排出できなくなり、尿毒症が進行します。尿毒素が血液中に入り込み、口内炎や胃炎になりやすくなります。
食欲がない、吐くといった症状が頻繁にみられるようになり、飼い主も異常に気付きやすいステージです。

ステージ3になると、腎臓の機能は正常時の10分の1まで低下します。

ステージ4

最後にステージ4です。
ステージ4は、尿毒症が進んでおり、重症な状態です。すぐに治療をおこなわないと命に関わると考えられます。

この段階まで体の状態が悪化すると、次のような症状がみられます。
  • 急激に痩せる
  • ほとんど動かない
  • けいれんする

初期段階で進行を抑えることも可能

高野 航平

ステージ1や2の段階から、フードを変更したり、薬やサプリメントを飲みはじめたりすることで、病気の進行を抑える効果があると考えられています。
ただ、年齢や健康状態により必要な栄養素やカロリーは変わりますので、獣医師さんに確認しましょう。また、飲水量を確保するため水飲み場を多く設置したり、こまめにトイレを掃除して排泄状況をチェックしたりすることも大切です。

猫の慢性腎臓病(慢性腎不全)の治療法

腎臓病の猫
一度失われた腎臓の機能は、治療しても回復することはありません。万が一、腎臓病だと診断されたとき、具体的にどんな治療を受けるのでしょうか。
ここでは、猫の慢性腎臓病の治療方法について紹介します。

点滴

点滴は、不足している水分を補います。点滴で尿量を増やすことで、尿の老廃物や毒素の排出を促すのに効果的です。

点滴には皮下点滴と静脈点滴があります。
静脈点滴は入院などの預かり治療となることが多いですが、皮下点滴は通院でも可能な処置です。

投薬

症状の程度にもよりますが、内服薬を処方されることもあります。慢性腎臓病でよく使用される内服薬には、以下のようなものがあります。
  • 血管を広げて血圧を下げ、腎臓の負担を軽減する薬
  • 腎臓の機能低下を抑制する薬
  • 持続的なタンパク尿がみられた場合に処方される薬
  • リン吸着剤
  • 活性炭製剤

食事

慢性腎臓病と診断された場合、食事はタンパク質やナトリウム、リンを制限したものに切り替えます。
動物病院では、療法食が処方されることもあります。慢性腎臓病と診断されてから早い段階で療法食に切り替えることは、病気の進行を抑えるのに効果的です。

透析

人工透析には、血液透析と腹膜透析の2つがあります。
ただ、血液透析設備のある病院は限られていることと、腹膜透析についてもカテーテルの処置に麻酔が必要で、猫に大きな負担がかかるため、かかりつけの獣医師に相談しましょう。

再生医療

慢性腎臓病のステージ1〜3の段階では、再生医療を受けられることがあります。
再生医療は、点滴を通じて健康な猫の幹細胞を投与する治療法です。
対応している病院は数少ないため、こちらもかかりつけの獣医師に相談してみましょう。

治療期間は個体差がある

高野 航平

腎臓病の治療期間は、急性腎臓病の場合、数日から数週間で完了することもあります。ただし、慢性腎臓病の場合は数カ月~数年になることも多く、診断後は終身にわたり治療をおこなう必要があります。

症状の程度にもよりますが、ステージ1~2の場合は食餌療法から開始します。その後、飲み薬やサプリメントを追加し、症状の進行とともに点滴治療やそのほかの治療に移行する場合が多いです。

いずれの治療も一度開始すると継続治療が必要で、個体差もあります。治療期間について詳しく知りたい場合は、かかりつけの獣医師に相談をしましょう。

猫の慢性腎臓病(慢性腎不全)は予防できる?

腎臓病の猫
猫の腎臓病を予防することは難しいといわれています。
子猫のときから腎臓に負担をかけないようにしたり、定期的に健康診断を受けたりして、早期発見・早期治療に努めることが大切です。
ここでは、腎臓病の原因となる疾患などの予防法を紹介します。

水分補給

腎臓病の原因には、尿路結石や膀胱炎などの下部尿路疾患が含まれています。これらの病気にかからないようにするためには、水分摂取が大事です。
水をしっかりと飲むことで、腎臓病の予防につながります。

しかし、なかなか水を飲んでくれない場合もあるでしょう。
蛇口から流れる水が好きな猫や、自動給水器の水が好きな猫もいます。愛猫の好みを観察し、飲み場を複数の場所に配置したり、器はいろいろなものを用意したりすると効果的です。

また、ミネラルを多く含む水は尿路結石の原因となるので、ミネラルが少ない水道水などを与えてください。水はこまめに取り替え、清潔な状態を保つことも重要です。

ストレス対策

ストレスを常に抱えていると、体調の悪化や免疫力の低下を招きます。愛猫と遊ぶ時間を増やしたり、一人になれるスペースを確保したりして対策をおこないましょう。

猫は完全室内飼いを

高野 航平

可能性は少ないのですが、猫が外出することで感染症にかかり、細菌による感染症から腎不全になることがあります。室内飼育をして、外出させないようにすることも腎不全を防ぐうえで重要です。

獣医師に聞いた! 猫の腎臓病についてのQ&A

腎臓病の治療費の目安は?
慢性腎臓病の治療期間、治療内容により費用は大幅に変わります。初回診断後、1カ月に1回通院すると1年間に12~20回ほどの検査・処置・薬やフード代がかかり、途中で入院が必要になると、入院代も加わります。
また、動物病院は自由診療のため、診療費は病院によって異なり一概には言えず、治療時にご確認いただくことをおすすめします。
腎臓病になりやすい猫種はいる?
高齢猫の場合、種類に関係なく腎臓病になりやすいといわれます。
また、遺伝的腎疾患が認められる種類としては、メインクーン、ペルシャ(チンチラ)、アメリカンショートヘア、ロシアンブルーなどが挙げられます。
子猫でも腎臓病を発症するの?
子猫や若齢猫でも、腎臓病を発症しないとは言い切れません。腎臓病のリスクが高い品種のほか、化学物質など腎臓に負担がかかるものを摂取し中毒を起こした場合や、生まれつき腎臓が小さいなどの先天的疾患のある猫も腎臓病になる可能性はあります。

予防策は上記に述べた成猫の内容と同じですが、子猫や若齢猫に腎臓の療法食を与えると、必要なエネルギーや栄養素を充分に摂取できないことも考えられます。治療法としては、フードは成長期に合ったものを選択し、投薬治療や点滴のみをおこなうケースもあります。

獣医師からのメッセージ

高野 航平

猫の腎臓の機能は、一度失うと回復しないため、腎不全については早期発見と早期治療が重要です。
現時点では、腎機能低下の進行を遅らせたり、病気によって起こる症状を緩和したりする、といった治療法がおこなわれていますが、今後ほかの治療法が出てくる可能性もあります。

できる限りの予防をしたうえで、万が一腎臓病だと分かったら、猫に合った治療を早期に開始し、少しでも長く元気な状態を維持してあげたいですね。

まとめ

腎臓病の猫
腎臓病は、猫のかかりやすい病気の一つです。一度失われた腎臓機能は治療しても回復することはありませんが、さまざまな治療方法によって症状を緩和し、病気の進行を遅らせることができます。
腎臓病は早期発見・早期治療が重要なので、定期的に健康診断を受けるのがおすすめです。また、猫の腎臓病について理解し、子猫のときから腎臓に負担をかけないようにお世話することを心がけましょう。