猫が水を飲まない理由

猫と水入れ

十分に足りている

猫が水を飲まない原因として、もっとも多いケースです。普段からウエットフードを食べている場合は、水分量が足りているためあまり水を飲まないこともあります。不安であれば、一日の最初と最後に残っている水の量を量ってみるのもいいでしょう。

水が汚れている

容器に入って置かれている飲み水に、抜け毛やほこりなどのゴミが浮いている、水が濁っている、不快なにおいがするなど、水が汚れていると感じたとき、猫は水を飲まないことがあります。

器が気に入らない

ただ単に容器が気に入らないというだけで、水を飲まない猫もいます。
安定感があって、顔やひげが濡れにくく、飲み口が小さすぎない容器を好む猫が基本的に多いようです。また、ステンレスや陶器といった材質でも好みがわかれることがあります。

水飲み場が嫌い

家族がひんぱんに通りかかる場所、テレビや洗濯機の近くなど音がうるさく落ち着かない環境、猫用・犬用トイレの近くなど、飲み水を置かれている場所が気に入らないために、水を飲まない猫もいます。

気温が低い

猫はもともと犬よりも水分をほしがらないうえに、寒くなると活動量が減り、じっとしていることが多くなるため、水を飲む量が減ることがあります。

飲みにくい状況にある

ケガや病気のため水を飲む姿勢がとりにくい、嚥下能力が落ちている、水の置いてある場所まで移動できないなど、猫が水を飲みたくても飲めない(飲みにくい)状況にある可能性も。

高齢猫や傷病猫に対しては、水を飲みやすいように飼い主が猫を介助する、水飲み場を増やすなど、手助けや工夫をしてあげましょう。

普段と様子が異なる場合はすぐに受診を

高野 航平

おしっこの量や回数が普段と比べて多い/少ない、トイレに行っても出ない、何度もトイレで排尿姿勢をとるといった様子が見られる場合には、すぐ受診するようにしましょう。

また、水分が不足することで便秘気味になることもあります。便が出にくい、硬くなっている、ごはんを食べているのに2~3日便が出ない場合にも、受診すると安心です。

猫にとって1日に必要な飲水量

勉強をする猫
猫の健康のために、1日に必要な飲水量は体重1kgあたり50~60mlとされています。

体重2kgの猫であれば100~120ml4kgの猫であれば200~240ml程度の水分が必要です。これはキャットフードに含まれている水分も合わせているので、ウエットフードやふやかしごはんを食べている子なら、飲水量が少なめでも心配はないでしょう。

子猫が水を飲むのはいつから?

子猫は生後4週間ごろから離乳がはじまります。そのくらいの時期になると、ミルクからフードに移行しはじめるので、少しずつ水を与えるようにしましょう。フードのふやかしに使う水分量やウェットフードに含まれる水分量もあわせて、調節してあげます。
離乳食開始直後は、水だけでは飲んでくれない子もいるため、ミルクを一緒に飲ませることで水分不足を予防できます。

子猫が好きなウエットフードで水分をプラス

ウエットフードは水分が多く含まれているため、愛猫の飲水量を増やしたいときにおすすめです。缶詰に多いフレーク状のもの、トレーに入っているパテ状のもの、ゼリーで覆われたパウチ包装のもの、スープタイプなどがあります。

ウエットフードのほとんどは個包装になっており、少量から試せるので、子猫が気に入るフードを見つけてあげましょう。

水分量をチェックする方法

愛猫の体に水分が足りているかどうかを調べる簡易な方法が「テントテスト」です。

ツルゴールテスト」とも呼ばれる方法で、猫の首の後ろのたるんでいる部分や肩甲骨の間など、余裕のある部分の皮膚をつまみ上げます。
このとき、皮膚はテント状になりますが、手を離したあとにもとに戻る時間の長さで脱水の状態を推測します。

2~3秒で戻る場合はあまり心配はいりませんが、10秒、20秒と時間がかかるときは、脱水が進んでいる可能性があります

水分不足が引き起こす病気

病気になっている猫
水分が不足すると、体液が少なくなった状態になります。脱水により体液に含まれる水分と電解質が不足することで、体にさまざまな不調を引き起こし、時に重篤な状態に陥る場合も……。水分不足に注意しなければいけません。

尿石症

水分不足や、食事の偏り、細菌感染などが原因となり、腎臓や尿管、膀胱内に結石ができてしまうことを尿石症といいます。
尿石は膀胱内や尿道を傷つけ炎症を引き起こし、血尿や痛みを伴うおそれがあります。また、詰まってしまうとおしっこが出なくなり、腎不全につながり命に関わることもあります。

膀胱炎

水分不足によりおしっこが濃くなって量が減少すると、膀胱内に細菌が繁殖しやすくなり膀胱炎につながります。また、放置してしまった結石により膀胱粘膜が傷つくことも原因となります。
尿の出が悪くなる、排尿時にいきむ、苦しそうな様子を見せる、血尿が出る、頻繁にトイレに行くなどの症状が見られます。

腎不全

水分が不足することで発症しやすい病気の一つが腎不全です。
原因はさまざまで、水分不足により腎臓の血流が低下し、腎臓に負担がかかって発症するもの、尿管結石などが詰まってしまうことでおしっこが出せなくなり、腎臓に障害が起きるものがあります。

食欲不振、嘔吐、下痢、便秘のほか、痩せてくる、ぐったりするなどの症状があり、治療せず放置すると生命に関わることもあります。

猫に水を飲ませるための7つの工夫

蛇口から水を飲む猫

1.フードを水でふやかす、ウエットフードに変える

愛猫のいつものごはんがドライフードなら、水やぬるま湯でふやかしてあげましょう。このとき、大量の水分を加えると味が薄まってしまうため、食いつきが悪くなることがあります。

最初はスプーン1~2杯程度のぬるま湯を加えるのがおすすめです。やわらかさに好みがある猫もいるので、水分の量やふやかす時間を調節してあげるとよいでしょう。
ふやかしても食べない場合は、水分量の多いウエットフードに変更するのも一つの手です。

2.水を入れる容器を変えてみる

ひげや鼻先の毛が水や容器に触れると、気になって水が飲めない猫もいます。器はできるだけ大きいものを選び、陶器やガラス、プラスチックなどを試して、愛猫が気に入る素材を探してみてください。
また、ある程度高さがあるほうが飲みやすい子もいるので、高さも調節してあげられるとよいでしょう。

3.水の温度を調整する

暑い季節でも、氷水のように冷たい水を好む猫はあまり多くありません。水の冷たさに驚いて飲むのをやめてしまう猫もいます。

基本的に新しい水道水を与え、飲まないようならお湯や冷水を足して少しずつ温度を変化させ、愛猫が好む温度を見つけましょう

4.水飲み場を変える

水飲み場の環境を変えたことがきっかけで、水を飲むようになることもあります。廊下やキッチン、リビングなど、いつもと違う場所に水の容器を置いてみて、複数の場所で水が飲めるようにするとよいでしょう。

5.水道の蛇口から直接飲ませる

猫は動きのあるものに対して興味を示します。洗面所やキッチンなどに誘導して水を出してあげることで、好奇心から流水を口にする場合があります
そのほか、自動給水器を使用するのも一つの方法でしょう。

6.水の種類を変える

くみたての新しい水道水を飲まない子には、水を沸騰させてから冷ます「カルキ抜き」をした水を与えてみましょう。
また、ペット用のスポーツドリンクは、電解質のバランスがよく、十分な塩分や糖分が含まれているためおすすめです。人間用のスポーツドリンクはミネラルや糖質が多いため、必ずペット用を選んであげるようにしましょう。

7.おいしいにおいのする水を与えてみる

水道水のにおいが気になる子には、おいしいにおいのする水を作って与えてみましょう。猫が大好きな舐めるタイプのおやつを水で溶くと、風味につられて飲んでくれる場合が多いようです。

そのほか、塩分の入っていない野菜や肉、魚をゆでこぼした汁もおすすめです。その場合は、猫が食べても大丈夫な野菜や肉などを選んであげるようにしましょう。治療中の病気によっては、決められたごはん以外は避けたほうがよいときもあるので、かかりつけの先生に相談してから与えてください。

愛猫の好みを探るのがポイント

高野 航平

容器の素材やお水の温度、流水かどうかなど猫によって好みはさまざまです。新しい容器を使用する場合、はじめは警戒することもありますが、指の先にお水をつけて「お水だよ~」と教えてあげると安心してくれることもあります。
少し大変かもしれませんが、猫の好みを探してあげることも楽しめるとよいですね。

猫が飲んではダメな水もある

NGマーク

硬水

硬水は、一般的な日本の水道水に比べてミネラルの含有量が高く、日常的に摂取することで下痢を引き起こしたり、腎臓や膀胱内に結石ができやすくなったりするので避けたほうがよいです。軟水でも、人間用のミネラルウォーターにはたくさんのミネラル成分が含まれており、尿石症の原因となります。
どうしてもミネラルウォーターをあげる必要があるときには、ペット用のものを選びましょう。

塩分が含まれているゆで汁

肉や魚、野菜のゆで汁をあげるときは、塩分が入っていないもの、人間用の味付けをしていないものを与えてください。
とくに肉や魚の加工品では、素材の塩分がゆで汁に浸出している可能性があるので注意が必要です。

花瓶の水

花瓶の水には、植物から浸出した化学肥料成分が含まれていることがあります。
また、ユリ科の植物など、花や葉・花粉が猫にとって有害な植物もあり、注意が必要です。花瓶の水を飲んでしまうことがないように注意しましょう。

飲みすぎもよくない? 多飲の症状から疑われる病気

診察を受ける猫
「いつも容器に入れた水がなくなるから大丈夫」と思っていても、多飲の場合も病気が隠れている可能性があります。
水を飲まないことも心配ですが、水の飲み過ぎも注意しなければいけないため、日ごろから水をどのくらい飲んでいるか把握しておくようにしましょう。

慢性腎不全

長期間にわたって腎臓の機能が低下し、役割を果たせなくなった状態です。ゆっくりと時間をかけて腎臓の機能が悪くなり、一度低下した腎臓の回復は見込めません。
腎臓で水分の再吸収ができなくなるため薄いおしっこがたくさん出ます。その代わりにたくさん水を飲むので、腎不全の典型的な症状として知られる「多飲多尿」が見られます。

糖尿病

血液中のブドウ糖の量が持続して高くなる高血糖状態が続くことで、全身に悪影響を及ぼすのが糖尿病です。
初期には飲水量と尿が増える多飲多尿の症状があり、中期には食欲が旺盛でも痩せていきます。末期になると食欲低下、下痢や嘔吐、ふらつきなどの症状が表れます。

甲状腺機能亢進症

甲状腺機能亢進症は、代謝を活発にする甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、さまざまな症状を引き起こす病気です。

興奮しやすくなり活動量が増えるため、たくさん食べても痩せていく、よく鳴くようになる、多飲多尿、脱毛などの症状が出ます。そのほか、甘えん坊になる、逆に攻撃的になるなど、性格に変化が見られる場合も。

子宮蓄膿症

子宮内に細菌が入って繁殖し、炎症を起こして膿がたまっている状態が子宮蓄膿症です。
膿が膣を通って体外に漏れ出しているのが「開放型」、反対に子宮内に膿がとどまっているのが「閉鎖型」です。

膿による汚れや悪臭で発見しやすい開放型に比べて、閉鎖型は病気の進行が早く、対応が遅れると死に至る可能性が高くなります。猫は犬ほど多くは見られませんが、発熱による倦怠感、多飲多尿、おなかが膨れる、陰部に膿や血が付くなどの症状があります。

獣医師に聞いた! 水を飲まない猫についてのQ&A

シニア猫にうまく水を飲ませる方法は?
自分で水を飲むことが難しいときは、お皿を猫のそばまで持っていってあげて、飲みやすい体勢を整えてあげるとよいでしょう。
また、どうしても飲水が難しい場合は、点滴により水分量を補ってあげる必要があります。かかりつけの先生に相談してみてくださいね。
自動給水器を購入したけど、猫がなかなか水を飲んでくれない。慣れさせる方法は?
自動給水器のお水を飼い主の指につけて、猫に「お水だよ~」と教えてあげるのは一つの方法です。あふれるタイプや蛇口タイプがあるので、お好みを見つけてあげましょう。

水音が気になる子もいるので、水量の強弱を調整してあげると飲んでくれるようになるかもしれません。どうしても飲んでくれないときは、流水ではなく容器に汲んだ水をあげるとよいでしょう。
猫が急に水をよく飲むようになった。どのくらいが多飲になる?病院に連れて行く目安は?
飲水量は、一般的に1日に約50ml/kgが適正といわれています。
個体差があり、季節や運動量によっても変動しますが、1日に何度もお水を飲むようになった、今までの倍以上飲んでいるといった場合は早めに受診しましょう。
多頭飼いの場合、それぞれにうまく水を飲ませるためのポイントは?
猫によって好みが異なる場合は、可能であれば複数の場所にそれぞれの水入れを準備してあげるとよいでしょう。とくに好みはなくても、猫の動線上に複数の水飲み場を設置してあげると、水分不足を防ぐことができます。

獣医師からのメッセージ

高野 航平

もともと猫はあまり水を飲みたがらない動物です。
しかし、飲まないからといって体内に必要な水分が不足してしまうと、脱水が起こり全身にさまざまな影響を及ぼします。いつでも新鮮なお水が飲めるように、ごはんをあげる時に一緒にお水の容器も確認してあげることを習慣づけましょう。

ウエットフードを利用する、容器や水温など猫のお好みを見つけるなど、お水に興味をもたせるために工夫して、水分をしっかり摂取できるようにすることが大切です。お水を飲む量や回数、尿の回数や量についても普段からチェックして、小さな変化にも気づいてあげられるようにしましょう。

老猫や病気の猫など自分で水を飲みにくい状況にある場合は、病院で水分補給をしもらう必要があるので、かかりつけの先生に相談してくださいね。

まとめ

飼い主とくつろぐ猫
猫にとって必要な量の水分を飲んでもらうにはどうしたらいいか、さまざまな角度から考えてきました。
水飲み容器が気に入らない、水が冷たすぎて嫌だなどちょっとわがままなんじゃないの?と思われるかもしれませんが、これもまた、猫ならではの魅力です。
水分不足は病気の原因になることもあるので、しっかり水分をとれるよう工夫して、愛猫が健康な生活を送れるようにしていきたいですね。