猫の皮膚病ってどんな病気?

寝ている猫
皮膚に赤みやポツポツが出たり、じゅくじゅくしたりカサカサしたりと、何らかの異変が起きた状態は皮膚病が疑われます。

皮膚病の原因は、寄生虫や細菌、真菌などの感染、アレルギー、ストレスなどさまざまです。
原因によって治癒までにかかる時間は異なり、数日で治ることもあれば数カ月かかることもあります。

猫の皮膚は被毛に覆われているため、皮膚トラブルの発見が遅れることも多く注意が必要です。

猫の皮膚病の症状

皮膚の見た目の異変(症状)を発疹といいます。代表的なのは次の通りです。
  • 皮膚の色の変化(赤くなる、紫になる、白くなる、茶色~黒っぽくなるなど)
  • 皮膚の盛り上がりやしこり
  • 水疱や嚢胞
  • 腫瘍
  • びらんや潰瘍
  • かさぶた
  • フケが増える
また、被毛のべたつきや量の変化、かゆがる様子(体をかく、舐める、かじる、こすりつけるなど)が見られるのも皮膚病ではよくある症状です。

猫の様子に異変を感じたら早めの受診を

高野 航平

皮膚病は多岐にわたり、症状がさまざまなため一概には言えませんが、出血やべたつき、かゆみ、赤みが見られたり、臭いに変化を感じたりした場合は早めの受診を推奨します。

重度の場合には、皮膚以外にも症状が出ることがあります。たとえば、かゆみがひどい場合には睡眠不足や元気・食欲の低下、怒りっぽくなるといったことも見られます。

猫の皮膚病の原因

診察を受ける猫

アレルギー

猫も人と同じようにアレルギーを起こします。
アレルギーの詳細なメカニズムについては研究段階ですが、本来アレルギーは、体を守るための防御機構(免疫)が過剰に働いてしまい、体に害を与えてしまう反応のことを指します。
アレルギーの原因物質はアレルゲンと呼ばれます。

猫の体に異物と判断される可能性があるものは、大きく分けて3種類あります。いずれも強いかゆみがあり、脱毛の症状が表れることもあるので注意が必要です。

食べ物

食べ物は牛肉や鶏肉などの肉類から、大豆や麦のような穀類まで、さまざまです。
食材の何かがアレルゲンとなり、皮膚炎を発症します。

ノミ

ノミは、ノミの唾液に含まれるタンパク質がアレルゲンとなり、皮膚炎が引き起こされます。

ハウスダスト

ハウスダストとは、家の中にある1mm以下の小さなごみのこと。カビや塵、ほこりのほか、花粉やノミ・ダニの死骸、皮膚片や抜けた髪の毛もハウスダストと呼ばれています。
これらがアレルゲンとなり、かゆみや発疹など、皮膚の炎症を引き起こします。

感染症

皮膚に、細菌や真菌(カビ)が感染することで皮膚病になることがあります。
とくに免疫力が低い子猫や高齢猫は感染率が高く、また、乾燥やケガなどによって皮膚のバリア機能が低下している部分は感染しやすくなっています。猫ではとくに「皮膚糸状菌症」という真菌感染症がよく見られます。

また、皮膚糸状菌症はほかの動物や人にもうつる「人獣共通感染症」のため、掃除の徹底や、多頭飼育であれば隔離するなどの注意が必要な疾患です。

主な症状として、円形の脱毛や大きなフケの発生などがあります。

寄生虫

ダニ

ダニに寄生されることにより、かゆみを引き起こします。
皮膚に穴をあけるヒゼンダニというダニに寄生されると「疥癬(かいせん)」という皮膚病になります。
疥癬は激しいかゆみ、発疹、脱毛、かさぶたなどの症状が出ます。

ノミ

ノミは寄生するだけでかゆみを引き起こします。
ノミに吸血されることにより皮膚炎やアレルギー反応が起こり、アレルギー性皮膚炎を発症することがあります。

猫の皮膚病の診断方法

診察を受ける猫
ブラッシングの際に皮膚の異常を見つけたり、愛猫がしきりにグルーミングをするようになったりと、いつもと違う様子が見られたら動物病院へ行きましょう。
動物病院でおこなわれる皮膚病に対しての診断方法を詳しく解説します。

問診

皮膚病に関わらずですが、診察のはじめには問診がおこなわれることがほとんどです。

症状はいつからか、症状は悪化しているか、普段からノミ・ダニの駆除はしているかなどの問診があります。環境の変化やフードの変更、外出の有無など、原因に何か心あたりはあるかという質問をされることもあるでしょう。
問診は猫の既往歴などを把握し、今後の診療の方向性を決めるために重要なものです。

愛猫の症状については、気付いた時点でメモや写真などで記録しておくと、進行具合の比較に役立ち、説明もしやすいのでおすすめです。

皮膚や被毛の確認

視診や触診によって皮膚の状態を確認するほか、場合によっては、臭いを嗅いだり写真を撮ったりしてチェックします。
症状が出ている部分は、目視での確認のほかにも、フケや皮膚組織を採取して検査をおこなうこともあります。

細菌や真菌などの感染症が疑われる場合は、患部付近の毛や皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べたり、必要に応じて菌の培養をおこなったりする場合もあります。

寄生虫の確認

ノミやダニが寄生していないかを確認します。
手やノミ取りコームなどで毛を直接かき分けて、寄生虫本体や寄生虫の糞を探す以外にも、皮膚にテープを張り付けたり、皮膚をこすったりして毛や皮膚の一部を採取し、顕微鏡で調べることもあります。
耳の中や耳垢などを専用スコープで見て確認する場合もあります。

血液検査

内分泌疾患やアレルギー、そのほかの内臓疾患によって皮膚や被毛に異常が出ているケースもあるため、血液検査をおこなうことがあります。

アレルギー検査

基礎疾患がなく、寄生虫感染、真菌や細菌の感染などもない場合にはアレルギーが疑われます。

アレルギー性皮膚炎の原因は、ノミ、食物、アトピーの3種類です。アレルギー性皮膚炎と診断された場合、さらに詳しく調べるために通院する必要があり、血液検査のほか、以下のような検査が実施されることがあります。

除去食試験

食物アレルギーが疑われる場合、アレルゲンを特定するために実施します。
これは、アレルギーの原因となっている可能性のある食材を除去することからはじめる検査で、結果が出るまでに数カ月を要することもあります。

皮内反応試験

アトピー性皮膚炎が疑われる場合、アレルゲンは花粉やフケ、ほこりなどのハウスダストである可能性が高いです。
花粉などアレルギーの原因と考えられる物質を、あえてパッチや注射で体の中に入れる皮内反応試験をおこなうこともあります。


なお、猫のアレルギーでは、はじめにノミを除外し、そのあとに除去食試験や食事負荷試験などで食事アレルギーでないことを確認した結果、アトピー性皮膚炎を疑って治療を開始することが多いです。

猫の皮膚病の治療

聴診器と猫
猫の皮膚病の治療は原因ごとに方法が異なります。主な治療法を解説します。

投薬

皮膚病の治療薬は、症状や原因、飼育環境などによって使用する種類を使い分けます。
また、複数の薬を併用することもあります。抗菌薬や抗真菌薬、抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬など)、抗炎症薬(ステロイドなど)などが処方されることが多いです。
投与方法もさまざまで、内服薬外用薬注射薬などがあります

ノミ・ダニが原因の場合は、専用の駆除薬を使用します。飲み薬や塗り薬などは数種類あるので、愛猫の性格や体質に合うものを処方してもらうのがおすすめです。

薬を使用する際、用量や投与回数などについては獣医師からの指示を守りましょう。

食事療法

食物アレルギーだとわかった場合、アレルゲンが含まれないフードに変更し、数週間かけて症状の変化がないか様子を見ます。期間中は飲み物やおやつなど、口に入れるものすべてをアレルゲンが含まれていないものにする必要があります。

愛猫に留守番をさせている間も徹底しなければならないため、細心の注意が必要です。一口でもアレルゲンを口にしてしまうと、落ち着いていた症状をぶり返してしまうので、誤食にも注意しましょう。

また、食物アレルギーがなくても、アトピー性皮膚炎などで皮膚の修復に必要な栄養を補ったり、肌バリアを鍛えたりするために食事療法をおこなうこともあります。

薬用シャンプーは必ず獣医師に相談してから使いましょう

高野 航平

薬用シャンプーは動物用医薬品(外用薬の一種)であるため、自己判断での使用は推奨できません猫ちゃんのなかにはシャンプーが苦手な子も多く、ストレスにより体調を悪化させてしまうおそれもあるため、主治医にシャンプーの必要性を確認しましょう。

また、糸状菌症の場合には、自宅でのシャンプーやドライヤーの使用により室内にカビをまき散らしたり、飼い主さんにカビがうつったりする可能性もあるので注意が必要です。

猫の皮膚病で気を付けること

寝ている猫

やってはいけないこと

自己判断での投薬

皮膚病は原因が異なっていても、見た目の症状が似ていることが多いです。そのため、前回と似た症状だからといって、過去に処方された薬を使いたくなるかもしれませんが、使わないようにしましょう。場合によっては症状を悪化させるおそれもあります。

また、処方された薬と似た成分の薬を見つけても、自己判断で使用するのはやめましょう。

自己判断でのシャンプー

皮膚病が疑われる場合、自己判断でのシャンプーは控えましょう。

皮膚炎を引き起こしているときは、体液や血液で被毛が汚れているかもしれませんが、まずは動物病院へ相談に行きましょう。
清潔にするのは大切なことですが、炎症を起こしているときや傷があるときのシャンプーは症状を悪化させてしまう可能性が大いにあります。

シャンプーや薬浴(薬用シャンプーの使用)は必ず獣医師の診察を受け、指示を仰いでからおこないましょう。

日ごろから皮膚をチェックする

アレルギー性皮膚炎などの場合、完全な予防は難しいといえます。ブラッシングやスキンシップをおこなう際に、被毛をかき分け、皮膚に異常がないかチェックするようにしましょう。

普段の健康な状態を把握し、異常があればできるだけ早く病院へ連れて行き、診察を受けるようにしてください。

体の外と中からケアすることで皮膚病の予防につながる

高野 航平

皮膚病になったら主治医とよく相談し、自己判断での通院の中止はなるべく避けましょう。見た目が改善されていても、皮膚病の原因によってはまだ完治していない場合もあり、再発することもあり得ます。
これまでの努力が水の泡にならないように、今後の治療方針についてよく相談すると安心です。

皮膚病の予防のためには、皮膚のこまめな観察がとても重要です。それ以外にも、臭いや行動の変化(毛づくろいの頻度やよく舐める、よく掻いているなど)がないかも観察するとよりよいでしょう。

また、強い皮膚づくりは多くの皮膚病予防に役立ちます。強い皮膚は「体の中からのケア」と「体の外からのケア」がポイントです。
前者は、皮膚の栄養を補い、免疫力を高めるためにタンパク質や脂質、ビタミンの摂取バランスを意識するようにします。
後者は、ブラッシングや保湿対策、血行促進のためのマッサージなどをするとよいでしょう。

獣医師に聞いた! 猫の皮膚病についてのQ&A

猫の皮膚病は自然治癒する?
軽い傷などによる軽度の皮膚炎であれば、自然治癒することもあります。
しかし、かゆみや赤みなどの症状が数日続く場合は、自然治癒が難しい可能性もあるため、受診をおすすめします。

また、皮膚病は慢性化すると猫ちゃんの生活の質を下げてしまったり、治療期間が長くなってしまったりすることもあります。早期発見・早期治療に努めて、なるべく早めに受診することが大切です。
猫が皮膚病になったら、人やほかのペットにうつる?
感染性の皮膚病の場合はうつってしまう可能性があります。皮膚糸状菌症は人にも動物にもうつりますし、ノミやダニなどの外部寄生虫は動物同士でうつる可能性が高いです。

皮膚病と診断された場合は、人や同居動物にうつるものなのかを確認するとよいでしょう。感染性のある病気であれば、手洗いなどの衛生管理以外に、隔離や消毒などをおこなうべきかを主治医に確認すると安心です。
皮膚病によって毛が抜けてしまい、体の一部がはげてしまった……。対策はある?
一般的に毛が生えるスピードは一定であるため、それを早めることは難しいですが、数カ月ほどで生えそろってくることが多いです。
しっかりと毛を伸ばすためには、切れにくい良質な毛を育てる必要があります。そのためにも、健康で清潔な皮膚を保ち、十分な栄養を与えるとよいでしょう。

なお、まれに皮膚の損傷がひどく、毛根部が傷んでしまい、以前のように毛が生えてこない・毛質が変わるといったこともあります。そのため、皮膚病になる前のような毛並みを取り戻すためには、早期発見・早期治療を心がけて、症状を悪化させないことも大切です。

獣医師からのメッセージ

高野 航平

犬と比べて猫は皮膚病になりにくいといわれていますが、絶対にならないわけではないため、日ごろから皮膚や被毛の色や質感、臭いなどを観察し、こまめにチェックしてあげましょう。
長毛種では毛玉が原因で皮膚病になることもあるため、毛玉対策を心がけてくださいね。

ほかの猫と触れ合う機会がある場合は、猫同士がじゃれた際にできた傷が悪化したり、寄生虫や真菌などをうつし合ったりする可能性もあります。定期的に傷がないかチェックし、駆虫などもおこないましょう。

また、猫で有名な顎ニキビも皮膚病の一種です。
患部をきれいにするために拭きすぎてしまうと肌バリアが傷つき、炎症や感染を起こすこともあります。一気に汚れを取ろうとせず、毎日軽く拭いてあげる程度に留めましょう。

見た目の変化から気が付きやすい皮膚病ですが、その原因は多岐にわたります。きれいな皮膚に生まれ変わるまで1カ月ほどはかかるといわれているため、皮膚病治療は数カ月以上の長期戦になることもしばしばあります。
また、見た目がきれいになっても根本的原因が解決できていないと再発する難しいケースもあります。治療の際は主治医とよく相談するようにしましょう。

まとめ

毛づくろいする猫
猫の皮膚病にはさまざまな症状と原因があり、原因を突き止めるのには時間を要することもあります。そして愛猫が皮膚病を発症する確率は決して低くありません。
日ごろから愛猫の様子や皮膚の状態を観察して、早期発見を心がけましょう。いつもと違う様子が見られたときは、動物病院での問診時のためにも、メモや写真で記録を残しておくことをおすすめします。