猫の健康診断は年に1回

猫 獣医師
飼育環境やフードの質の向上、獣医療の進歩などにより猫の寿命は伸びています。しかし、人間より速いスピードで年を重ねることに変わりありません。そして人間と同様に、加齢によってかかりやすい病気もあります。

ただの長生きではなく、“健康に”長生きしてもらうためには健康診断が必要不可欠です。

猫の健康診断の必要性

猫には、野生のころの習性で体調不良を隠す傾向があります。また、私たち人間のように言葉で訴えることもできません。

そのため、飼い主が愛猫の不調に気が付いたときには、すでに症状が進行している可能性も大いにあり得ます。

健康診断は愛猫の健康を維持するためにも、病気の予防や早期発見のためにも、とても大切なのです。

健康診断の頻度

健康診断は1~6歳までは年に1回、7歳以降は年に2回が理想。定期的な健康診断により健康時の数値を把握しておくと、体調の異変に対してすぐに気が付くことができるので診断の手がかりにもなります。

ただし、健康診断の頻度は健康状態によって変わってきます。また、年齢による頻度についても獣医師によって意見が分かれます。

かかりつけの動物病院と相談しながら、適切な頻度で健康診断を受けましょう。

はじめての健康診断はいつ?

子猫は、成猫と比べて体調を崩しやすいものです。お迎え後1カ月以内など、なるべく早い時期にはじめての健康診断を受けるのが安心でしょう。健康診断を受けることで、先天性の病気があった場合の早期発見にもつながります。

また、2回目の混合ワクチンのタイミングは、親猫から譲り受けた免疫がほぼ消失している時期でもあります。ワクチン接種と同時に受けられるか、動物病院に聞いてみてもよいでしょう。

保護猫は健康診断が大切

高野 航平

もしも猫を保護した場合、外にいた猫にはノミやマダニなどの外部寄生虫がついていたり、おなかの寄生虫がいたり、人にも感染する真菌を保有していたりすることがあります。ご自身で猫を保護したときには、数日中に受診されるとよいでしょう。

また、猫エイズや猫白血病などのウイルス性疾患に罹患していることもありますので、先住猫がいる場合、保護猫は健康診断を受けさせて、主治医からの許可が降りるまでは接触をしないようにしてください。

猫の健康診断の検査内容

猫 診察
猫の健康診断の一般的な検査内容は、次の通りです。
  • 問診
  • 触診、視診、聴診
  • 尿、便検査
  • 血液検査
  • レントゲン検査
猫の年齢や健康状況に応じて、オプションとして項目を追加することもあります。

それぞれの検査内容について、詳しくみていきましょう。

問診

問診は診断の手がかりとなる大変重要なものです。問診票に普段の様子や飼育環境、気になることなどを記入したうえで、獣医師による問診がおこなわれます。過去の既往歴や現在の投薬の有無、療法食などの食事内容についても必ず伝えるようにします。

問診をもとに検査内容を決めることもある重要な検査なので、問診票は正直に、できるだけ具体的に記入しましょう。

触診、視診、聴診

触診は、獣医師が猫に直接触って検査する項目です。全身を触りながら体型、皮膚や被毛の状態、しこりの有無、痛みや熱感・冷感の有無、関節の動き、臓器の形状やサイズに異常がないか、脈拍や脱水状態をチェックします。

視診は、獣医師が目で見て検査する項目です。姿勢や歩行の様子、体のバランスチェックに加え、皮膚、目、耳、口、おしりなどに異常がないか、刺激に対する反応性なども確認します。

聴診では、聴診器を当てて心臓や呼吸音、腸蠕動音(ちょうぜんどうおん)などを確認します。

尿、便検査

尿検査

腎臓や膀胱のトラブルを早期発見できるのが、尿検査。猫は尿路結石や腎臓病になりやすいといわれているので、定期的に受けたい検査です。体重がオーバー気味の猫は糖尿病にも注意が必要です。

採尿は自宅あるいは病院でおこないますが、猫は採尿が難しい場合が多く、尿道にカテーテルを入れたり、膀胱に針を刺したりして直接採尿することもあります。

便検査

便検査では、肉眼で便の形状、色や臭い、血便などをチェックします。さらに、顕微鏡を使用して、寄生虫の虫体や卵の有無、腸内細菌のバランス、消化の状態などを調べます。

便は比較的採取が容易なため、自宅で採取して持参することがほとんどですが、難しい場合は動物病院に相談してください。
持参する便は、できるだけ新しいものが望ましいです。すぐに持参できない場合は冷蔵保存を推奨しますが、保存方法については病院に確認してみましょう。

血液検査

血液検査にはさまざまな項目がありますが、大きくわけて4つに分類されます。
  • 血球検査(貧血、血液の病気など)
  • 生化学検査(肝機能、腎機能、栄養状態、脂質異常、糖代謝、内分泌機能、電解質異常など)
  • 血液凝固検査(血液の凝固能、出血しやすさ、血液の病気など)
  • 免疫検査(感染症、炎症反応、アレルギーなど)
まずは、血球検査と生化学検査によってスクリーニング検査をします。手術前に、血液凝固検査をおこなうこともあります。
年齢や基礎疾患の有無、動物病院によって検査内容が異なり、結果によって追加検査が必要になることもあります。

レントゲン検査

人間の検査と同じく微量の放射線を照射し、腹部や胸部などを撮影し、体の中を調べる検査です。放射線は骨のような密度の高い臓器は透過せず白く映り、肺のような空気を含んだ透過性のよい臓器は黒く映ります。
そのような特徴を利用して、臓器の大きさや形状、位置、陰影の有無、結石の有無など、外側からは分からない病気や異常の発見に役立ちます

骨や関節の異常を調べることもできるため、シニア期を迎えた猫にもおすすめの検査です。

そのほかの検査

猫の年齢や病歴、血液検査の結果などによって、検査が追加になることがあります。

オプションとして追加できる項目としては、以下のような検査があります。
  • 甲状腺の検査
    超音波検査や血液検査で甲状腺の状態を調べることができ、シニア期の猫に多い甲状腺機能亢進症の診断をおこないます。
  • 超音波検査
    超音波検査は体内に超音波を当てて、跳ね返ってきた超音波を映像化する検査です。骨のような硬い組織は超音波をほとんど跳ね返してしまうため観察が難しいですが、臓器の内部構造や血管の状態、腫瘤や結石の有無をはじめ、リアルタイムの動きなどの細かい部分の情報を得るのに役立ちます。痛みがなく麻酔の必要もないため、猫の負担が少ないというメリットもあります。

検査項目を追加するときは獣医師に相談しよう

高野 航平

猫の肥大型心筋症について、初期はほとんど無症状ですが、心不全や動脈血栓塞栓症を発症し、時に突然死することもある恐ろしい病気です。好発品種はアメリカンショートヘア、スコティッシュフォールド、ノルウェージャンフォレストキャット、ブリティッシュショートヘア、ペルシャ、ベンガル、メインクーン、ラグドールで、5~7歳のオス猫での発症が多いとされています。

該当する猫は定期的に胸のレントゲン検査、レントゲンで異常がみられた場合は心臓のエコー検査を受けることをおすすめします。また、好発品種以外の猫でも発症の可能性はあるため、咳をしている、安静時でも呼吸が早いなどの症状があれば、かかりつけの先生にご相談ください。

レントゲンや超音波検査、心電図検査、血圧測定など猫に痛みのない検査がほとんどですが、どのような検査も猫には負担がかかります。CTやMRIなどの検査は全身麻酔が必要です。
やみくもに検査を受けるのではなく、どのような検査が必要なのかかかりつけの先生と相談して決めるとよいでしょう。

猫の健康診断の費用

費用
「家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査」(平成27年度)によると、一般的な健康診断(1日ドッグ)の平均値は、14,021円。ただし、病院や検査の内容によって費用に差があります。

一般的に、検査内容は動物病院が設定したコースから選びます。必要であればオプションで検査が追加されます。コース設定されている病院であれば、個別で検査するより、コースを選択するほうが費用を抑えられることが多いようです。

愛猫の健康状態を第一に、検査内容と費用面について、動物病院に相談してみましょう。
家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査

猫の健康診断の注意点

猫 聴診器
最後に、猫が健康診断を受けるときに飼い主が気を付けたい点について解説します。

予約必須

健康診断を受ける際は、必ず予約をとってから行きましょう。問診から検査まで、健康診断はある程度の時間がかかるものです。

病院によっては午前中に預かり、午後にお迎えに来てもらう半日コースの場合もあります。

突然行っても受けられない可能性や、尿や便の採取などは自宅でおこわなければならないこともあるため、あらかじめ予約をしておくと、スムーズに検査を受けることができるでしょう。

事前の注意を守る

健康診断を受ける際は、病院から事前に出された指示を守ることも大切です。
尿や便を自宅で採取する必要があるか、前日や当日は絶食や絶水が必要かなど、しっかり検査が受けられるように確認しておきましょう。

また、服用中の薬の有無や持病がある場合は先に伝えておき、病院からの指示を仰いでください。

来院時は猫がリラックスできるように対策を

高野 航平

健康診断で来院するときは、全身が入るくらいゆとりのある大きさの洗濯ネットに猫を入れて、しっかりとファスナーを閉じておくことをおすすめします。パニックになって逃げ出そうとしてもすぐに保護できますし、布に包まれていることで安心感を与えられます。

扉が横にしかないキャリーケースは猫が嫌がって出てこなかったり、扉を開けた瞬間に逃げ出す危険性があったりするため、上が開くハードタイプがおすすめです。猫が怖がっている場合はキャリーの中で身体検査をすることもあります。

また、診察台の上はどうしても緊張してしまいます。診察室に通されても先生の指示があるまではキャリーケースの中で待機させて、ストレスのかかる処置の時間がなるべく短く済むようにしましょう。

獣医師に聞いた! 猫の健康診断についてのQ&A

絶食を指示されていたけれど、間違ってごはんをあげてしまった。どうしたらいい?
絶食できなかった場合、食餌の影響で血糖値やコレステロール値、腎臓の数値など、血液検査の結果が異常値となり、再検査が必要になったり、誤診につながったりする危険性があります。
また、レントゲン検査やエコー検査では、胃や腸の中の食餌や消化物が障害となって、異常が発見できなくなる可能性もあります。

そのため、食餌やおやつをあげてしまった場合は、健康診断を別の日に変更することもあるので、速やかに動物病院へ連絡して、先生からの指示を仰ぎましょう
愛猫のトイレのタイミングが悪く、尿や便を採取できなかったときの対処法は?
尿や便が自宅で採取できなかった場合は、病院で採取することもできますので、まずは動物病院にご相談ください。
病院が苦手で逆にストレスを与えてしまいそう。何か工夫できることはある?
猫は環境の変化に敏感な動物であるため、動物病院では非常に緊張したり怖がったりして、受診後にストレスで体調を崩してしまうこともあります。そのため、なるべく通い慣れた動物病院で健康診断を受けるとよいかもしれません。

受診の際は、猫が自分のにおいに包まれて安心できるように、愛用のベッドや毛布などをキャリーケースに入れてあげましょう。キャリーケースに布をかけて姿を隠してあげる方法も有効です。
できれば順番が呼ばれるまでは車の中で待機するか、猫専用待合室がある場合はそこを利用するのがおすすめです。

猫が嫌がって暴れたときに、なだめようとして飼い主さんが大きな声を出すと、猫はさらにパニックになる恐れがあります。心配になるかと思いますが、大きな声を出したり慌てたりせずに、病院スタッフにお任せしましょう。

猫のストレス緩和のため健診前日や来院前に、気持ちが穏やかになって眠たくなるようなお薬を投薬する場合もあります。処方が可能かどうか、事前に動物病院に相談するとよいでしょう。

獣医師からのメッセージ

高野 航平

猫は弱みを隠す動物のため、飼い主さんが体の不調に気付いた時には症状が進行していることがあります。健康診断は、その時の健康状態を確認し、自覚症状のない病気を発見することが目的です。

また、過去の検査結果との変化から病気の早期発見につながったり、かかりつけの先生から生活習慣や食餌内容などで改善するべき点についてアドバイスを受けられたりします。若いころは年に1回、年齢を重ねてきたら年に2回程度は健康診断を受けるのがおすすめです。

ただし、健康診断で問題なかったからといって油断は禁物です。日ごろから猫の活動性や毛並みを観察し、こまめに体重を量り、食欲や飲水量、尿や便などの排泄物の確認をしましょう。
お手入れやスキンシップの時に、体を触って異変がないかも見てあげてください。飼い主さんが感じる「小さな異変」がもっとも大切です。

定期的な健康診断によって生活習慣の見直しや病気の早期発見に努めるとともに、毎日の飼い主さんによる健康チェックを組み合わせて、猫が健やかに過ごせる時間をたくさん増やしていきましょう。

まとめ

猫 獣医師
健康診断は病気の予防や早期発見につながり、猫の健康寿命にも関わってきます。元気そうに見えても、病気が隠れていることもあるので定期的に健康診断を受けることが大切です。もちろん、愛猫の日ごろのチェックも忘れずにおこないましょう。健康診断を受けているからと安心せず、愛猫の健康状態はしっかり観察してくださいね。