猫のくしゃみの原因は?

上を見ている猫
猫のくしゃみの原因は、生理現象と病気の2つに分けられます。

生理現象のくしゃみ

ほこりなどの異物、柔軟剤や香水の強い香り、たばこの煙などが鼻に入り、粘膜が刺激されるときに見られます。急に冷たい風が鼻に入ったとき、猫自身の毛が鼻に触れたときなどにも、その刺激でくしゃみをすることがあります。

このようなくしゃみは、鼻がムズムズすることで起こる生理現象のくしゃみです。くしゃみをすることで、異物やごみなどを排除しています。

猫は人間よりも優れた嗅覚をもち、においを嗅いで情報収集をします。においを嗅いでいるときに、鼻の中にほこりなどが入るのはよくあることです。

生理現象によるくしゃみは1~2回で、鼻水が出ることもありますが、鼻腔内の異物が排除されたら止まります。一時的なものなので、それほど心配する必要はないでしょう。

病気の可能性があるくしゃみの症状

一方、注意が必要なのは次のような症状が見られるときです。何らかの病気によって、くしゃみをしている可能性があります。

  • くしゃみが続く
    1日に何度もくしゃみをする、くしゃみが何日も続くなど症状が繰り返し見られます。

  • 発熱がある
    猫の平熱はだいたい38度台ですが、熱があるときは39.5度以上になります。普段より体が熱く感じられ、元気がなく寝ていることが多くなります。

  • 涙、目やにが多い
    涙で目の下が常に濡れていたり涙目になったりしている、ネバネバとした目やにが多く出るなどの症状が見られます。

  • ドロッとした鼻水や鼻血が出る
    粘り気のある黄色っぽい鼻水、血の混じった鼻水や鼻血が出ることがあります。鼻づまりが生じると、食欲が落ちる場合がほとんどです。

  • 鼻の周りが腫れて見える
    鼻筋の辺りが腫れている、あるいは顔全体が変形して見えるようなこともあります。


鼻に炎症が起こると呼吸がしにくくなることがあります。このような症状は病気のサインとして表れることもあるので、一つでも当てはまる場合は、早めに動物病院で診察してもらいましょう。

くしゃみから考えられる病気は?

診察を受ける猫
くしゃみがなかなか治まらない、くしゃみ以外の症状が併発している場合はどのような病気が疑われるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

猫風邪

次の3つの感染症は感染力が非常に強く、多頭飼育をしている家庭はとくに注意が必要です。

猫カリシウイルス感染症

口、鼻、目の結膜から体内にウイルスが侵入して感染する「上部気道感染症」です。
くしゃみのほか、鼻水、咳、結膜炎、食欲不振など風邪のような症状が表れるのが特徴です。口内炎や舌炎といった症状からよだれが多くなったり、口臭がきつくなったりすることもあります。

猫ヘルペスウイルス感染症

別名「猫ウイルス性鼻気管炎」と呼ばれ、猫カリシウイルス感染症と同じ上部気道感染症の一つです。
口、鼻、目の結膜から体内にウイルスが侵入して感染するため、くしゃみや鼻水、結膜炎、食欲不振といった風邪症状に加え、発熱や倦怠感などの症状が見られます。


猫カリシウイルス感染症猫ウイルス性鼻気管炎ともに、一度感染するとウイルスが体内に残ってしまいます。そのため、一度回復しても免疫力が落ちたときに症状が再度見られることもあります。

猫クラミジア感染症

クラミジアという細菌が目や鼻から侵入し、感染します。
くしゃみや鼻水、咳、結膜炎が主な症状で、悪化すると肺炎になることも……。結膜炎による目の充血や腫れ、目やにが出るのも特徴です。

アレルギー性鼻炎

人間と同じように、猫にもアレルギーをもつ猫がいます。
花粉、ハウスダスト、カビ、ダニなどアレルギーを引き起こす物質(アレルゲン)が体内に入ることで、くしゃみ、鼻づまり、鼻水、咳、目のかゆみや腫れといった症状が表れます。

そのほかに、アレルギー性の皮膚炎を起こすこともあります。

副鼻腔炎

鼻腔内の炎症による鼻炎が慢性化し、鼻の奥にある副鼻腔にまで炎症が及ぶと発症します。原因として多いのはウイルス感染ですが、細菌感染やアレルギー、鼻腔内異物、鼻腔内に形成された腫瘍性病変から発症することもあります。

くしゃみや粘性のある黄色っぽい鼻水が主な症状で、鼻が詰まって嗅覚が低下するため、食欲が落ちます。悪化すると鼻血が出たり、蓄膿症に進行したりすることもあります。

クリプトコッカス症

「クリプトコッカス」という真菌(カビ)を原因とする感染症です。ウイルス性の疾患などにより免疫力の低下した猫がかかりやすく、健康で元気な猫はほとんど発症しないといわれています。

症状はくしゃみやねばねばした鼻水、血の混じった鼻水、鼻にできる肉芽腫など。感染が広がると発熱や意識障害、運動障害、視神経にまで影響を及ぼすことがあります。

飼い主やほかの猫ちゃん経由で感染しないよう対策を

高野 航平

くしゃみの出る病気は、猫同士でうつるものがほとんどです。
多頭飼いの場合、1頭でもくしゃみが見られたり、お迎えしたばかりの猫ちゃんがくしゃみをしていたりするときは、まず治療を受けていただき、症状が落ち着くまで飼育環境をわけることを推奨します。

また、飼い主さん経由で感染することもあるため、症状が見られる猫ちゃんを世話したあとは服を交換し、手洗いや消毒を徹底してから、ほかの猫ちゃんを触るようにしましょう。

猫のくしゃみの予防や対策

掃除機をかける
猫のくしゃみがウイルスや細菌による感染症を原因とする場合、猫を屋外に出さないことが一番の予防です。また、日常生活でくしゃみの症状を和らげることもできるので、飼育環境や自宅でのケアについて見直すのもいいでしょう。

こまめな掃除で部屋を清潔に保つ

アレルギーによるくしゃみを予防するには、こまめな部屋の掃除が大切です。空気清浄機を活用するなど、ハウスダストや花粉がたまらないように心がけましょう。

部屋を清潔に保つことは、感染症の予防にもなります。

適正な湿度管理

空気が乾燥しているとウイルスが繁殖しやすくなります。加湿器などを活用して、湿度を40~60%に保ちましょう。

定期的なブラッシング

毛にアレルギーとなる物質が付着していると、猫がグルーミングをしたときに体内に取り込んでしまう可能性があります。

猫の毛に付着したダニやほこり、花粉などを取り除くためにも、ブラッシングは定期的におこないましょう。

健康診断・ワクチン接種

猫の健康診断について、1~6歳までは年に一度、7歳以上のシニア猫は半年に一度が理想といわれています。

元気でとくに異常がなかったとしても、定期的に健康診断を受けることで猫の健康を守ることができます。また、異常があった場合でも早い段階で治療できる可能性が高くなります。

猫風邪の原因となるウイルスは、ワクチン接種で予防できます。初回は1カ月間隔で2~3回の接種が必要ですが、その後は1年または3年に1度の接種で問題ありません。
ワクチンにはいくつかの種類があり、飼育環境や健康状態をもとに、どのワクチンを接種するか動物病院で判断します。また、ワクチンの種類により予防できる病気も異なります。

ただし、完全に感染リスクを排除できるものではないので、猫を外に出さない、外猫との接触を避けるなどの対策もおこなうようにしましょう。
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猫のくしゃみの治療はどんなことをするの?
はじめに猫の飼育環境を伺ったのち、出ている鼻水の性状を確認し、治療方法を検討します。

細菌感染の場合は抗生物質を処方し、ウイルス感染の場合はインターフェロンの投与や、点鼻薬の使用で治療します。鼻づまりがある場合は、吸入をおこないます。

アレルギー性疾患の場合、アレルギー物質を除去しますが、花粉など季節性のアレルギーが原因で除去が難しいときは、症状を抑制する薬を処方します。

なお、聴診により粗雑な呼吸音が聞こえたり、重度の呼吸困難や開口呼吸が見られたりする場合はレントゲン検査をおこない、点滴入院や酸素室での預かりになることもあります。
猫がくしゃみをしていたら、人にもウイルスはうつる?
原因となるウイルスの種類が違うので、基本的に人間の風邪やインフルエンザは、猫にはうつらず、猫の風邪も人にはうつりません。

ただし、新型コロナウイルスに感染した人から猫が感染したと考えられる事例がいくつか報告されています。
ペットから人に感染した事例は報告されていませんが、今後どのようなウィルス感染が蔓延するかは分かりません。新型コロナウイルス感染症に限らず、動物由来感染症の予防のため、動物との過度な接触は控えるとともに、普段から動物に接触する前後で、手洗いなどの消毒をおこなうようにしてください。とくに飼い主や、猫の体調が悪い場合は、できる限り不必要な接触を控えましょう。
猫のくしゃみは自然に治る? 連続でくしゃみをしていたら絶対病院に行かないとだめ?
猫に体力や免疫力があり、十分な栄養をとれている場合や、気温や湿度が極度に低い季節でなければ、症状が軽減したり、くしゃみが自然と治まったりすることもあります。

しかし、くしゃみが出る猫の多くは、幼若齢や高齢の猫、抵抗力のない猫、基礎疾患がある猫のため、治療をしないと症状はよくなりません。また、放置することにより、副鼻腔炎や気管支炎、肺炎などに症状が拡大することがあります。
場合によっては命に関わりますので、早期に診療を受けることをおすすめします。

獣医師からのメッセージ

高野 航平

猫がくしゃみをしたら、くしゃみが出たときの状況や、くしゃみの回数を注意して観察しましょう。くしゃみがすぐ治まらない、くしゃみのほかにも気になる症状がある場合は、病気が隠れている可能性が非常に高いです。

また、ワクチン未接種でウイルスに感染した場合、治癒までに数週間から1カ月以上かかることもあり、症状が完全に完治しない可能性もあります。ウイルス感染症や細菌感染症以外の疾患の数は、そこまで多くはありませんが、いずれにしても、早期発見と早期治療が重要なので、悪化する前に動物病院の先生に相談してくださいね。

まとめ

聴診器と子猫
ほこりや異物を吸い込むことで、猫がくしゃみをするのは珍しいことではありません。そのため、過度に心配する必要はありませんが、なかには病気の一症状としてくしゃみをしていることもあります。くしゃみが続いたり、くしゃみ以外の症状が見られたりするときは動物病院に相談してください。また、何より大切なのが猫の住環境を清潔に保ち、毎日の健康状態をしっかり観察すること。飼い主がしっかりケアすることで、愛猫の病気予防につながります。